数年前からBBCラジオのラグビーポッドキャストを聴いている。おかげで、スコットランド、ウェールズ、イングランドの国代表やクラブチームの試合、スクワッド、その他諸々に関して、少しずつ情報が蓄積されつつある。
長年ラグビーに関わって来た番組プレゼンター達の知識は豊富で、語り口も面白い。チームの状況、選手やコーチ陣のパフォーマンス、ゲーム開催地にまつわる思い出、引退した選手を招いて語り合う試合の予想に対戦後のレビュー、現役選手のインタビューなどなど、話題も多彩。ラグビーシーズンには最新ポッドはまだか、と朝イチに必ずチェックするほど楽しみにしている。
選手のラグビー人生もちょくちょく紹介される。どんな地域で育ち、どのローカルチームでプレーしたか、クラブチームでの活躍ぶりや、怪我や不調により陥った低迷期の話。聞けば聞くほど、順風満帆な歩みなどないことが分かる。
目下多くのラグビーファンが注目していて、あかおにも気になっているのが、ウェールズ国代表の低迷と、クラブチーム再編成の話だ。混沌とした状況を事細かに説明できるほど咀嚼できていないが、ざっくり言うと資金不足などの問題があり、現在4つあるクラブチームが近い将来3チームに縮小される公算が高いという。
ただ、このチーム再編成の話は二転三転していて、当初削られると予想されていたチームではなく、現時点では別のチームの身が危うくなっているらしい。この問題ではウェールズラグビー協会(WRU)の対応の拙さも槍玉に上がっている。情報不足、一貫性に欠ける説明、今後の計画の不透明さのために、プロのラグビー解説者や選手、地元のファンも状況が理解し切れず相当混乱し、不満も続出。WRU相手に訴訟を起こす組織が出てくる事態にすらなっている。
ウェールズにおけるラグビーの位置付けは余暇の域を越え、生活の一部であり、ウェールズ人のDNAに組み込まれているといってもあながち間違いではないだろう。選手、コーチ、サポートスタッフ、運営関係者、メディア、ファンだけでなく、地域の人々にとっても、ラグビー文化は欠かせない。
かつては石炭鉱業で栄えたが、近年のウェールズは経済的に潤っているとは言えない。しかし、ひとたび国代表の試合でピッチに出れば、ラグビー界のエリートと目され資金も潤沢にあるイングランドや、南アフリカ、ニュージーランドといった世界の強国を相手に、バチバチの試合を展開。つい数年前までは世界ランキングの上位を維持し、他の強豪国からもよいライバルとして尊敬を集めて来た。
また、プロラグビーのローカルダービーにあっては、地元サポーターの期待を背負って、各地域の選手がライバルとして火花を散らし、優越を争う。ファン達はおらがチームの活躍と対戦相手の敗北を願って、熱烈な声援を送り、試合の結果に一喜一憂する。
そんなウェールズからまた1つチームが消滅する危機が迫っているのだ。どん底と表現されることもある国代表のパフォーマンスだが、このチーム再編の危機が低迷の一因、という意見が出るのも致し方ない。
将来の見通しが立たないこともあり、国内屈指の有力選手が所属チームとの契約を更新せず、ウェールズ外のチームに移籍を決めるケースもある。特に2026/2027シーズン前に国代表の現キャプテンがイギリスのクラブに移るという情報は、大きな衝撃波を生んだ。
彼は、ワークレートの高さとスキル、リーダーとしての力量に定評がありながら、負けの続く国代表の試合では持てる能力を存分に見せる機会がなかなか得られなかった。
しかしそんな状況下でも、昨年のブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ(B&I Lions)のメンバーリストには彼の名があった。当初メンバー38名のうち、ウェールズの選手はたった2人。不幸なことにもう一人の選手がオーストラリア代表とのテストマッチ(本戦といったところ。国代表戦と同格とみなされている)前のクラブチーム戦で負傷し早々に離脱したため、実質的には唯一のウェールズ代表だった。
スキルの高い選手がしのぎを削るポジションであるため、試合そのものに出られるのか、出たとしても十分に時間を与えてもらえるのか、多くのファンが気を揉む中、彼はテストマッチ2戦目でついにテストデビューを果たす。そして、世界中のラグビーファンが固唾を飲んで見守る最終盤の重要な場面で、逆転のチャンスを作る大仕事をやってのけた。言わば一世一代の大舞台で、長年にわたって語り継がれるであろう記憶に残る活躍を見せたのだ。
B&I Lionsは4年に一度編成されるイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの選りすぐりの選手達から成るチームで、メンバーに選ばれることはこの4カ国の選手にとってラグビー人生の頂点に立つに等しい、とさえ言われる。南半球のニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアを順に訪れ、当地の国代表と対戦する。普段は敵対する4カ国の選手達だが、このツアーでは何週間にもわたって行動を共にし、練習を重ねて実践に挑む中で生涯切れることのない絆が生まれる。一握りの選手にしか与えられないこの機会を得ることは、選手本人のみならず、家族や、彼らを支えてきた地域の人々にとっても、大変名誉な出来事なのだ。
だから、ウェールズにとって英雄とも言える存在の現キャプテンが地元のクラブを離れるような事態は、正直あってはならない。だが事実は、この展開はすでにしばらく前から恐れとともに予想されていて、彼の今後のキャリアを考えれば、正しい選択とさえ考えられている。
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憂いの多いウェールズラグビーだが、最近ようやく薄陽が差して来たか?と思われる出来事があった。
つい先日まで行われた六カ国対抗戦 (Six Nations) の最終節で、ウェールズはようやく3年ぶりに一勝を決めたのだ。これはSix Nationsでは15戦ぶりの勝利だという。そして、2023年のラグビーワールドカップ以降、28戦中3勝目という成績だ。
切なくなるような記録ではあるが、2023年RWC後に大幅な世代交代があり、ベテランの主力選手を一気に失ったウェールズにとって、戦力低下は避けられない事態だったとも言える。若手を育成する基盤も整っておらず、才能ある選手の流出にも打つ手がないまま、ここまで来てしまったのだからなおさらだ。
5戦中1勝という今年のSix Nationsの結果に希望を見出すのは気が早いかもしれないが、直前の2戦で兆しを見せ始めていたチームとしてのまとまりや個々の選手の決定力が、この最終節で一気に開花し、ジンクスが破られたのだ。空席の目立つ試合が続いていたウェールズのホームグラウンド、プリンシパリティ・スタジアムはこの日、7万人もの観客の歓声で沸き返った。
プリンシパリティ・スタジアムはドーム型の開閉式の屋根を持つ。美しい歌声で知られる男性コーラスと、これまた美声のファンが試合前に歌うウェールズ国家が響き渡り、特に閉じられた屋根の下では、独特の雰囲気に包まれるらしい。しかし、ひとたび試合が始まると、ホームファンの熱気と声援は圧倒的で、プレッシャーが半端ないという。一番記憶に残るスタジアムは?と聞かれてプリンシパリティと答える人は、ウェールズ内外にかかわらず、選手、ラグビーファンともに多い。
あかおにがあたためている夢の一つは、Six Nationsの試合の現地観戦だが、プリンシパリティ・スタジアムでのウェールズ戦観戦は、マリーフィールドでのスコットランド戦観戦に次いでプライオリティが高い。
閉じられた屋根の下、緋色のレプリカジャージに身を包んだウェールズファンに見守られ、レッド・ドラゴンの申し子達が果敢に戦う姿をこの目で確かめたい。
その日に思いを馳せつつ、遠いこの地からウェールズの復活と躍進を心から祈っている。